5月31日(金)DPI全国集会in松山 地域生活分科会報告
「障害者権利条約19条から考える地域生活と障害者総合支援法の改正」
5月31日(金)第35回DPI全国集会in松山で開催した地域分科会について、DPI地域生活部会から報告と、参加者である 岸本慶子さん(自立生活夢宙センター)に感想を書いて頂きました。是非ご覧ください。
地域生活分科会プログラム「障害者権利条約19条から考える地域生活と障害者総合支援法の改正」
■講演「浅田訴訟判決のインパクト」
呉 裕麻(弁護士、浅田訴訟弁護団長(岡山県))
■パネルディスカッション「総合支援法改正 何を守り何を変えるのか」
パネラー
・呉 裕麻(弁護士、浅田訴訟弁護団長(岡山県))
・今村 登(STEPえどがわ代表、DPI事務局次長)
・岡本 紀子(相談支援事業所こころ塾 相談支援専門員)
コーディネーター:尾上 浩二(DPI日本会議副議長、内閣府障害者施策アドバイザー、JDFパラレポ特別委員)
開催経緯、分科会報告、今後に向けて
■分科会開催の経緯
DPI日本会議では2016年から2019年にかけて三菱財団の助成を受けて、「障害者総合支援法モデルチェンジデザイン提言事業」を実施し、障害者権利条約に根差した総合支援法への改正に向けた課題の整理や政策提言を行ってきました。
地域生活分科会ではこの成果を踏まえ、「障害者権利条約19条から考える障害者総合支援法改正」をテーマに議論しました。様々な論点がある中でも、とりわけ65歳を境に介護保険を優先適用され、これまで利用できていた障害福祉サービスが利用できなくなってしまう人も出ている「65歳問題」を中心に、現状の課題や今後の取り組みの方向性について確認、共有することを目的として、報告およびパネルディスカッションを行いました。
■分科会で報告、議論したこと
分科会の前半は浅田訴訟の弁護団を務められた呉氏や松山で相談支援員をされていた岡本氏の報告、後半はSTEPえどかわの今村氏の報告とお三方に加えてコメンテーターにDPI日本会議副議長尾上氏を交えパネルディスカッション、会場からの質疑応答という流れでした。
まず、弁護士の呉氏からは「65歳問題」で訴訟をされた浅田さんの闘いの記録を語っていただきました。浅田さんの状況としては脳性麻痺で岡山の市営住宅に介助を利用しながらの一人暮らし、65歳を前に介護保険に切り替えるようにと通達が届いたことから呉氏を含む弁護士の方々に相談に行かれたそうです。
当初、呉氏たちは、そうは言っても生活があるので、すぐに制度を打ち切ることはしないだろうと予測していたが、予測に反して岡山市は浅田さんの制度利用を打ち切ったそうです。これを受けて、浅田さんと呉氏たちは岡山市の提訴に踏み切ったそうです。
当時の岡山市の制度運用は独自の解釈で障害認定区分が6かつ介護保険で要介護5の人にのみ時間数や制度利用の上乗せ横出しを認めるという形をとっていたようです。しかし、浅田さんが望んでいるのは引き続きの重度訪問介護の利用なので、制度利用打ちきりからしばらくの間はボランティアなどを募って、自費で賄っていましたが、その生活を続けて行くことに激しく困難を感じ、やむにやまれず、途中で介護保険を申請したそうです。その後も本来の重度訪問介護の利用を求めて、岡山市との激しい闘いは続いたそうですが、岡山市は一貫して「重度訪問介護も介護保険もサービスは同じようなもの。申請しない方が間違っている。」との主張を続けたそうです。
また、やむにやまれず申請した介護保険も更新の時期に等級を落とす結果が出そうになり、再び制度利用が脅かされるなど、二度に渡って死ぬ思いをされました。そんな中でも浅田さんは自分のためだけでなく、他の障害者に同じような思いをさせたくない一心で裁判を闘われたとのことでした。分科会の当日には裁判でも用いられた浅田さんの生活実態を映した映像を見せていただきました。この映像は浅田さんの生活における介助の重要性を伝えるキーポイントになったそうです。加えて厚労相の通達や他地域の制度運用と解釈の事例を挙げるなどして、浅田さんは5年におよぶ裁判に昨年12月、勝訴されたそうです。しかし、岡山市から明確な謝罪がまだないため、今も謝罪を求めているとのことでした。
続いて、精神障害者の方々の相談員をされている岡本氏からは、日ごろ感じておられる「地域生活とは何か」ということに焦点を当てた報告がなされました。
岡本氏は、地域生活や地域生活における「当たり前」は人それぞれにあるとした上で、衣食住や働くこと、趣味などの憩いや人間関係の充実が大切であると語られました。加えて岡本氏からは65歳になったからといって次の日から必要なサービスが変わるわけではなく、継続的なものであり、そういった生活を少しでも楽しいと感じられるようにすることができれば良いのではないかと述べられました。
次に今村氏からは障害者総合支援法モデルチェンジデザイン事業の概要が報告されました。今村氏によれば、上記の事業は総合支援法をどのように活用し、より良いものにしていくか提言するための事業であり、総合支援法で現在積み残されている課題として、制度の対象となる障害の範囲が限定的であることや相談支援の在り方、サービス体系、障害者間や地域間での格差などが指摘されました。
そして、今村氏の報告の後には登壇者の方々によるパネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションでは主に松山、岡山、東京(江戸川区)の65歳問題に対する取り組みや制度運用の詳細が紹介され、地域ごとでの違いや格差があることがあることが浮き彫りになると共に、格差や違いを無くし、これまでの運動で勝ち取ってきた重度訪問介護を守り、更に発展させていくことが重要だとまとめられました。
最後の質疑応答としては会場からは、「障害者が自由と権利を取り戻すにはどうすれば良いか」という問いかけがあり、社会モデルの視点を持つことや地道に啓発活動をすること、教育分野から改革することが重要だと登壇者からの返答がありました。
■今後に向けて
今回の地域生活分科会では、将来的な介護保険統合議論が再燃する可能性も踏まえつつ、65歳問題にみられる介護保険優先原則が障害者の生活に切実な問題をもたらすものであることがあらためて確認されました。
こうした障害者の暮らしの実態にもとづきながら、障害者権利条約、とりわけ19条や一般的意見5に沿った施策や制度運用がされているか、当事者である私たちが監視し、意見提起や政策提言を行っていくことが重要です。
DPI地域生活部会 下林 慶史(日本自立生活センター、DPI常任委員)、白井 誠一朗(DPI事務局次長)
参加者感想
浅田訴訟の報告では、大阪にいると一人暮らしの場合、区分6で最低でも300時間が普通でそれでも足りないという印象です。しかし岡山県に住む浅田さんは細切れの249時間で、女性のヘルパーが男性である浅田さんに入ることもあるという生活でした。国の制度なのに格差がまだまだあると思いました。
浅田さんは裁判の途中で申請した介護保険を今も利用しています。訴えが認められても介護保険を利用し続けなければいけない現状は、何とか変えられないのか悔しい気持ちになりました。
岡本さんは、主に精神障害者の支援をしていて、介護保険の区分が低く出ることを願う場合もあるというお話でした。そして働くことやお金のニーズがあるという話もあり、私の周りでは障害種別に関わらず、短時間の就労や日中活動に行きながら、生活保護を利用している障害者が多いイメージなので、スタイルがいろいろあると思いました。
何歳になっても自分らしく生きられる制度にしていくことが必要だと感じました。
岸本 慶子(自立生活夢宙センター)
以上
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